2024. 6. 20

リモートワーク導入企業におけるマネージメント~課題を乗り越え、リモートワークを続けていくには?~

株式会社アイ・ディ・エイチの人事総務グループ責任者が、リモートワーク上のマネージメントにおける課題や解決策について解説します

リモートワークを継続させるべきかどうか――

新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いた現在、リモートワーク継続の可否が議題に上がる企業が多くなっています。リモートワークの継続を希望する社員が複数いても、経営・管理の課題が残る場合は廃止も視野に入るのではないでしょうか。特に各部門を統括する管理職がオンラインマネージメントに難しさを感じている場合は”オフィス回帰”の傾向が強く表れるでしょう。
しかし、リモートワークを全社的に導入した企業が突如リモートワークを廃止すると、社員の満足度低下による人材の流出や採用力の低下、オフィスの維持費用が増加するリスクを抱えてしまいます。

そこで今回は、創業当時からリモートワークを実施している当社アイ・ディ・エイチの人事総務グループ責任者が、リモートワーク上のマネージメントならではの難点や解決策、課題を乗り越えた先に見えた成果などについて語りました。

【解説者】
<株式会社アイ・ディ・エイチ 総務人事グループリーダー S.M>
Webコンテンツ運営企業にて管理部門業務全般を経験後、株式会社アイ・ディ・エイチに入社。前職と同じく管理部門に参画し、2021年より総務人事グループリーダーに着任。総務/労務、法務、採用、営業事務の4チームを統括する一方、自社農園の運営やIPO(新規公開株式)に向けた各種準備業務にも従事。

リモートワークでマネージメントする難しさ、悩みとは?

リモートワークでマネージメントする難しさ、悩みとは?

<当社は2014年の創業当時からリモートワークを実施していますが、それぞれ別の場所にいる社員を効率的に管理することは10年に渡るリモートワークの実績でもってしても容易ではありません。総務人事グループ責任者がオンラインマネージメントをスタートさせた当時は、やはりリモートならではの難しさを感じたといいます。>

―私は現在、総務人事グループに属する総務・労務、法務、採用、営業事務の4チームを管理・監督しています。
SES事業(技術者派遣)に所属するエンジニアと内勤スタッフを合わせて400人以上の社員が在籍しているため、労務管理やエンジニアの採用、契約事務など総務人事グループは常にフル稼働の状態です。このような状況のなか、オンラインでメンバーをマネージメントしなければなりませんから、最初の頃は上手く行かないことが多々ありました。
下記のような点は特に難しさを感じるところです。

コミュニケーションが円滑に進まない=やり取りに時間がかかる

以前と比べてコミュニケーションツールは随分と発達しましたが、それでもコミュニケーション自体は対面時ほど円滑には進まないのが現状です。

カメラをオフにしたときはもちろん、オンにした場合でも双方の表情がわかりづらく、身振り手振りも控えめになることから、お互いの真意が伝わりにくい場面も。マネージメントにおいては誤解が生じると信頼関係が揺らいでしまうので、コミュニケーションに少しでも違和感があるときは時間をかけて慎重に、こちらの主張・気持ちを伝える必要があります。

その結果、メンバーとのやり取りに時間がかかってしまうのは、リモートワークの大きなデメリットと言えるでしょう

働きぶりが見えない=業務量の調整やフォローの頻度で悩む

リモートワークではメンバーの働きぶりを直接確認できないため、本人の様子や進捗を見ながら業務量を調整したり、フォローしたりすることが少々難しい場面がありますが、これらは管理職の仕事のなかでも大きなウェイトを占めると同時にマネージメントの成功を左右する重要なポイントとなるところ。適切なタイミング・方法で対処できなければ業務に支障が出るばかりか、メンバーの離職にもつながってしまいます。

その一方、リモートワークは会社、管理職、メンバーといった立場を問わず、共有している目標達成のために一丸となって協働しているという信頼関係がなければ成り立ちませんから、「心配だから、不安だから」といって管理・監督の度が過ぎるのも問題です。

見守りと干渉が過ぎないフォローのバランスは、多くの管理職が悩むところではないでしょうか

メンバーと親睦を深める機会が極端に減る=メンバーの悩みごとへの対処が遅れる

メンバーの実際の近況はメールやチャット、通話だけでは把握しきれないものです。コミュニケーションのすれ違いから生じるメンバー間のわだかまり、育児や介護といったプライベート領域の問題、現在と今後のキャリア、体調不良など、それぞれが抱える不安・不満の内容や深刻度は実にさまざまですが、リモートワークではメンバーと直接会って親睦を深める機会が極端に減るため、こういった悩みごとをキャッチできず、管理職としての対処が遅れてしまいがちです

管理職がメンバーの悩みごとに気付いた頃には休職や退職を検討する段階に入っていることも少なくありません。社内における親睦はメンバーのモチベーション向上に役立つのはもちろんのこと、新しいアイディアが誕生するきっかけにもなりますから、リモートワークでマネージメントする管理職としてはこの点をどう解消するか、頭を悩ませるところではあります。―

リモートワーク導入企業の管理職がマネージメントの課題を乗り越えるためのポイントとは?

リモートワーク導入企業の管理職がマネージメントの課題を乗り越えるためのポイントとは?

<結局、リモートワークの大きな課題は「コミュニケーション不足」と「遠隔業務管理の難しさ」、この2つに集約されると言っても過言ではないでしょう。そして、この課題は管理職が直面するオンラインマネージメントの悩みそのものでもあります。では、管理職がこれらの課題を乗り越えてリモートワークを続けるためにはどうすればいいのでしょうか。4チームを率いる管理職が実地で得たオンラインマネージメントのポイントとは――。>

―リモートワークを支えるICTツールは年々高機能化していますが、リモートワークの2大課題である「コミュニケーション不足」と「遠隔業務管理の難しさ」を根本的に解決できるものは登場していません。したがって、よほど大きな技術革新がない限り、物理的な距離から生じる課題・デメリットをある程度受け入れながらリモートワークを続けていくほかないのですが、工夫すれば想像よりスムーズなマネージメントが可能です。一般的に、一人の管理職が管理できるのは5~10人といわれるなか、私は次のようなことを心がけることで、4チーム合計14名のマネージメントを大きなトラブルなく継続できています。

状況に合わせてコミュニケーションツールを使い分ける

コミュニケーションの滞りや冗長化は、時と場合に応じてコミュニケーションツールを使い分けることで大分解決できます
たとえば、

<内容が複雑で詳細な説明が必要なときや面談時>
対面コミュニケーションに限りなく近いビデオ通話(ZoomやGoogle Meet)を使用

<軽い質問や雑談など重要度の低い、カジュアルなやり取りのとき>
メッセージを気軽かつ迅速に送受信できるビジネスチャット(Slackやチャットワーク、Google Chatなど)を使用

<重要事項の通達や取引先とのフォーマルなやり取りのとき>
特別な設定をせずとも自動的に記録に残り、「言った・言わない」問題が生じにくいメールを使用

このようにツールを使い分けます。複数のツールを使用するので最初は戸惑うかもしれませんが、「面談はカメラオンのビデオ通話」「顧客への連絡はメール」など内容と使用するツールをある程度定めておけば選択に迷うことは少なくなりますし、情報伝達の迅速性・正確性・記録性の3点を満たした充実したコミュニケーションが可能になります。私のチームでも最初はメールのみ使用していましたが、業務内容によってツールを使い分けることでコミュニケーションの齟齬が少なくなり、業務処理のスピードもアップしました。

ビデオ通話やチャットは一般的な機能であれば無料で利用できることがほとんどなので、リソースに余裕がない中小企業の方はぜひ使っていただきたいですね。

ビデオ通話での定例会議や1 on 1ミーティングを欠かさない

チーム一同が同時に集まり、業務の進捗や今後の予定、懸念事項などの情報を口頭で共有するビデオ通話での定例会議は欠かさず行いたいものです。メンバー同士のちょっとした親睦の機会になるうえ、それぞれが持つ情報を共有・相談する場が持たれることでコンセンサスが形成され、チームに一体感が生まれます。

ただし、参加メンバー全員が意見・気持ちを話せることが大前提。管理職は進行役として参加者全員に話す機会を与え、かつ、話せる雰囲気を作ることが求められます。一部のメンバーだけが一方的に話す定例会議では意味がありません。

1 on 1ミーティングも定期的に行いたいものですが、この場合は「どのようなことを話しても構わない」ということを日頃から伝えておくべきでしょう。そうでなければ遠慮が働き、本心を話してもらえないので、結局悩みごとに対処できなくなります。

社内広報やオフラインミーティングを積極的に行う

リモートワーク導入企業の社員に欠けがちな業務へのモチベーション、組織への帰属意識を向上させるために、会社の状況や方針を社員に明確に伝える社内広報を積極的に行うことをおすすめしますなぜなら、社内状況の不透明性は噂や誤った情報の流布を誘発し、上記のようなモチベーションや帰属意識を削いで組織に対しての不安を抱きやすくさせるからです。この状態を放置すれば、いずれは社外にも広まり、企業の社会的評価にも悪影響を与えかねません。

特に経営陣に近い管理職の場合は「自分の発言=経営陣の意見」と捉えられることが多いため、このような立場にいる企業人は積極的に社内広報に参加し、会社の決定事項や方針を社員に正確に、誠実に伝える努力が必要です。

当社が年に1回キックオフミーティングとよばれるオフラインの会社説明会を行うのはこのためで、未上場企業(現在上場準備中)であっても決算や今後の方針などの情報をすべて社員に伝えています。
また、年に3回懇親会を開催し、社員同士の相互理解を促進させる機会も大切にしています。

業務効率化ツールを活用する

プロジェクト管理や顧客情報管理、会計ソフトウェアなどの業務効率化ツールを導入することで、リモートワークの生産性は一気に向上します

そういった点では、当社のリモートワーク勤怠管理システム『RemoLabo』を導入したことは業務管理の面でも画期的でした。『RemoLabo』は生産性分析機能も備わっているので、「誰がどのような業務に、どれだけの時間をかけていたか」を一目で把握でき、管理職が業務量を調整する際の非常に有効な資料になるのです。繁忙期や新規プロジェクトなど、何らかの理由で業務量が増えた場合でも、メンバーに過度な負担がかからないよう業務を適切に割り振れるようになったことは、マネージメントを円滑に進める大きな手助けになりました。―

リモートワークでマネージメントを始めて3年。奮闘の末に見えてきた効果は?

リモートワークでマネージメントを始めて3年。奮闘の末に見えてきた効果は?

<オンラインマネージメントを続けることで得られた効果は予想外に大きなものだったといいます。>

―リモートワークでマネージメントを続けた結果、当初は想定していなかった効果がありました。それは、自主的に業務に取り組む姿勢が見られるようになったことです。

出社して対面かつ同じ場所で仕事をしていると、管理職として所々でどうしても口を出してしまうことがあります。しかし、リモートワークで”適度な距離感”ができると、「それぞれの仕事の進め方を尊重して、できるだけ見守っていよう」と思えるようになりました。それが結果的に各メンバーの自主性・自己解決能力を伸ばすきっかけになったのです

また、メンバーが他のメンバーの業務をサポートする姿勢も見られるようになりました。これはジョブローテーションのような経験になるので、業務の属人化が徐々に解消されつつあります。毎日出社していたら管理職が意識して呼びかけない限り、このような効果は得られなかったでしょう。

リモートワークの継続は社員の自主性を育てる土壌になると、私は信じています。―

リモートワーク導入企業が直面する今後の課題点、展望とは?

リモートワーク導入企業が直面する今後の課題点、展望とは?

<2023年に緊急事態宣言が解除。改めて出社のメリットが見直されるようになった現在、それでもリモートワークを継続する企業が今後直面するであろう課題点や当社の管理職としての展望とは――。>

東京都が実施した2024年3月時点での都内企業のリモートワーク実施率調査によれば、リモートワーク実施率は43.4%。リモートワーク実施率が65%に及ぶこともあった2021年と比べると大幅に減少しています。
(参考:東京都「テレワーク実施率調査結果3月」)
単純に新型コロナウイルスの感染状況が沈静化したことが原因となっている場合もあれば、想定より上手く運用できず課題が残ってしまったことでリモートワークを廃止した企業も多いのではないでしょうか。

リモートワークを全社的に導入している当社でもまだまだ改善すべき点はありますから、やむを得ず廃止を決定した企業経営者の方の気持ちはわからなくはありません。ですが、ここで理解しておかなければならないのは、リモートワークは誕生してからまだ間もない、新しい働き方だということです。したがって、課題を解決するための参考事例が少なく、安定的な運用には時間がかかる点を理解しておく必要があります
もっと言えば、リモートワークを社内で定着させるためには、次々と表面化する課題に対して時間をかけて少しずつ解決する忍耐力が必要なのです。課題解決を先送りにしてリモートワークのメリットだけ享受しようとすれば、いずれはほころびが生じ、出社に戻る可能性が高いでしょう。

一つひとつの課題に真摯に向き合い、改善点をしっかり把握して解決に取り組めば、リモートワークは企業・社員双方に大きなメリットをもたらします。

当社は今後も引き続きリモートワークを継続していきますが、事業拡大に備え、今よりマネージメントの単位を大きくしても業務が回る体制の構築が今後の目標です。『RemoLabo』には勤怠を把握するだけのタイムカードのように機能してもらい、社員が自主性と自立性を全面に発揮して、より多くの業務を推進・進化させられる状態を想像していますが……決して実現不可能な未来ではないと考えています。―