2024. 8. 21

外国人従業員にリモートワークをさせる場合に起こりがちなトラブルとは?

株式会社アイ・ディ・エイチの経営企画責任者が、外国人従業員にリモートワークをさせる場合に起こり得るトラブルや対処法について解説します。

企業の信用調査会社大手の帝国データバンクが2024年5月に発表した「2024年度の業績見通しに関する企業の意識調査」(調査対象は全国2万7,052社)によれば、業績下振れのトップ要因は「人手不足の深刻化」であり、51.0%の企業が正社員の不足を懸念しているとの結果でした。
(参考:株式会社帝国データバンク「2024年度の業績見通しに関する企業の意識調査」)

業種・職種を問わず、労働力の確保は待ったなしの状況になっていますが、こうしたなかで存在感を増しているのが外国人労働者です。
そこで今回は、外国人の雇用・マネージメントの経験を持つ当社アイ・ディ・エイチの経営企画責任者が、外国人従業員にリモートワークをさせる場合に起こり得るトラブルや対処法について解説します。

年々増える日本企業の外国人雇用~深刻な人手不足を背景に大手企業でも外国人の採用が加速~

厚生労働省が2024年1月に発表した「外国人雇用状況の届出状況まとめ」によれば、2023年10月末時点での外国人労働者数は204万8,675人です。前年比で22万5,950人増加しており、これは過去最高の数値となります。 国籍別の労働者数ではトップがベトナム、中国、フィリピンであり、これらは日本での外国人労働者として馴染み深い国かもしれません。しかし今回注目していただきたいのは在留資格です。前年に比べて増加率が目立つのは学術研究の従事者、エンジニア(機械やIT等)などの専門的・技術的分野の在留資格であり、国内の労働市場にこうした高度外国人材が急増しているのです
(参考:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」<令和5年10月末時点>)

高度外国人材急増の理由

高度外国人材が今までにない勢いで増えている理由――。
それはすでに周知の通り、労働人口の減少です。少子高齢化が進んで労働人口の総数自体が減少すれば、高レベルな知識や技術を持つ人材も同時に枯渇し、結果として国際競争力や技術イノベーションで後れを取ることになります。これは事業をグローバルに展開している企業にとって会社の存続にかかわる大きな問題であり、ベンチャーやスタートアップ企業にとっても今後の成長を左右する、決して先延ばしにできない課題と言えるでしょう。

人材の獲得はもはや国際レベルで熾烈な競争が始まっています。 経団連(日本経済団体連合会)は、外国人材の受け入れ拡大を提言する報告書を複数発表していますし、政府は2012年から高度外国人材ポイント制(高度なスキルを持つ外国人に対してポイントを付与し、一定のポイント数を超えると優遇措置を受けられる在留資格制度)を導入しました。

潜在能力の高い外国人のオフィスワーカーは将来のリモートワーカー予備軍

人手不足は待っていても解決しません。日本人従業員を確保できないのであれば、自社文化と制度に馴染む高スキル人材として一から育てることを前提として、潜在能力の高い外国人を積極的に採用する段階に来ています。ここ最近は大手企業を中心に新卒の初任給が軒並みアップしていますが、大手ほどの給与を提示できない企業にとって、自社の給与水準を受け入れてくれる外国人は“金の卵”。重要な事業戦略の一つになることは間違いありません。
近い将来、社内のなかでもひと際高給のポジションが高度外国人材で占められる可能性も高いでしょう。

外国人従業員にリモートワークをさせる際によく見られるトラブルと対処法

一般的に、高度外国人材のような専門知識や高度なスキルを持つ人材は柔軟な働き方を希望する傾向があります。オフィスワーカーになれば、ICTツールの活用により物理的な制約から大幅に解放されるからです。となれば、企業が次に考えなければならないのは「リモートワークを許可するか否か」ではないでしょうか。

この点、それぞれの自主性を信頼・尊重するためにも、リモートワークを許可したいと考えている業務管理者は多いかもしれません。柔軟な働き方を認めることは従業員の定着につながるメリットがあるからです。
しかし、文化や価値観の違いは円滑なリモートワークの障壁になり得るというのが私の実感です。 たとえば、次のような点は外国人従業員にリモートワークを許可した際によく見られるトラブルであり、これからリモートワークを導入する企業はあらかじめ留意して対策を考えておくべきでしょう。

曖昧な業務指示は仕事の生産性・質を低下させる原因=業務指示は可能な限り明確に。マニュアル化は有効

一概には言えませんが、外国人従業員はいわゆる“行間を読む”ことが不得手です。出身国のコミュニケーション文化によっては「言われなかったことは行う必要がない」と捉える場合もありますから、テキストで業務指示を出す際は依頼内容を明確にすることを心がけてください
指示が曖昧だと仕事の生産性・質が下がるどころか、依頼した業務自体が未着手のままになることも。 指示の出し方のポイントは「誰に(業務を任せるスタッフの名前)・何を(仕事の内容)・どこまで(仕事の範囲)・いつまでに(期限)」といったところをはっきりさせることです。 ある程度定型化した業務であればマニュアル化するのも有効でしょう。これにより、管理者が誰であっても、誰がその業務を担当しても、仕事の質を一定に保てるようになります。
外国人従業員を活用して業務が上手く回っている大手企業では、このようなマニュアル化をしっかり行っている傾向があります。

不適材不適所はリモートワーク失敗のもと=外国人従業員の専門性やスキルレベルなどを把握するのは必須

前項の指示の出し方で挙げた「誰に(業務を任せるスタッフの名前)」の部分をもっと掘り下げると、業務を任せるスタッフを明確にするだけでなく、「誰に、何を任せたら最適か」という適材適所な業務の割り振りも必要です。リモートワークである以上、管理者が手取り足取り指導するわけにはいかず、適任者を選ぶ必要があるからです。 そのためには、管理者が普段から外国人従業員とコミュニケーションをとり、それぞれの専門性やスキルレベル、性格、仕事への向き合い方、出身国の文化などを理解しておくべきでしょう。 特に高スキル人材においてはスペシャリストとしてのプライドがありますから、専門外の業務を依頼すると上司への信頼や仕事へのモチベーションが下がり、離職につながるので注意していただきたいところです。
日本ではジョブローテーションで幅広い業務を経験させ、将来の管理職候補(ゼネラリスト)の育成に力を入れる企業が多いですが、それをスペシャリストである高スキル人材の外国人従業員に押し付けることは得策ではありません。

“弱い上司”の指示には従いにくい=「私はあなたのボスである」という毅然とした態度を見せる

一般的に、海外企業の管理職の権限は大きく、採用や昇進・降格はもちろんのこと、従業員のキャリアパスにも大きな影響を与えます。そのため、「強い上司=威厳と権限のある上司」でなければ業務のマネージメントやチームの統率も上手くいきません。外国人従業員にリモートワークをさせる場合は「いかなる働き方であっても私の指示は必ず守り、それなりの結果を出してほしい」と強く伝えることが大切です
ソフトな対応が求められる昨今の風潮に逆行するようですが、無駄に権威を振りかざすことと上司として強いリーダーシップを発揮することは別ですから、ここは少々強く出ましょう。 ただし、同時にこちらから外国人従業員への信頼も見せなければなりません
「あなただからこの仕事をお願いするのだ。私はあなたを信頼している」といった声かけを常日頃から心がけてください。理解力と高いスキルをもつスタッフであれば、信頼に対して忠誠心で返してくれるはずです。

非合理的な業務は会社への不満・批判につながる=リモートワークでは合理性が大切

目的がはっきりしない会議やほとんど閲覧されない資料の作成、紙文化への固執などは一部の外国人従業員から見ると極めて非合理的なルーティーン、習慣です。 一度外国人従業員から「これをやる意義がわからない」と判断されたものをリモートワークで義務化すると上司や会社自体への不満・批判が募り、業務にも悪影響を与えかねません
リモートワークを導入する際は廃止、あるいは省略しても問題がない業務がないかどうか見直すことをおすすめします。

業務指示だけではパフォーマンスや成長が停滞する可能性がある=フィードバックとフォローが必要

業務の進捗や質を確認するためのフィードバックを怠らないようにしましょう。リモートワークであっても管理者が働きぶりをチェックしていることを何らかの形で伝えなければ、パフォーマンスや成長が停滞する可能性が高い……つまり“だらける”からであり、これは日本人従業員においても同じです
また、業務に問題があると判断した場合はフィードバックと併せてフォローも必要です。ここでは問題を厳しく指摘するのではなく、相談に乗るスタンスで対応するのがベストでしょう
リモートワークに慣れていない外国人従業員の場合は本来の実力を上手く発揮できないこともあるので、“見守り”のフォローも忘れずに行ってください。

上記からわかる通り、外国人従業員にリモートワークをさせる際に問題となるのは文化や価値観の違いから生ずる業務の生産性や質、社内の相互信頼関係の低下です。 これらは日本人従業員がリモートワークをする場合にも生じる問題ではありますが、外国人従業員の場合は日本人従業員以上にバックグラウンドを考慮しなければならず、しかも場合によっては非常にセンシティブな部分に触れざるを得ないこともあるため、企業によっては「リスクあり」としてリモートワークの許可をためらうのは仕方がないでしょう。

業務の生産性や質の低下以上に問題なのはコンプライアンス違反

しかし、先に挙げたトラブル例は管理者がリモートワークの運用方法や業務フローを見直し、時間をかけて丁寧に対処していけば解決できることが多いのです。 私の経験から言えば、外国人にリモートワークを許可するうえでのリスクはコンプライアンス違反にあり、そちらの方が企業に与える損害は甚大です

たとえば、日本の法律や各種規制、商習慣などに詳しくない外国人従業員がリモートワーク中にうっかり機密情報を外部に漏洩したり、著作権を侵害したりすることが考えられます。 就業時間中に副業した結果、利益相反となることもあるでしょう。これらの行為は企業と従業員との信頼関係の低下や労使問題、経済的な損失だけではなく、訴訟に発展する可能性もあります。

2018年に先端科学技術研究所(AIST)に勤務する中国籍の研究員が自身の研究対象であった有機化合物に関する情報を中国企業にメール送信したとして不正競争防止法違反で逮捕された事件は記憶に新しいところでしょう。当該中国企業は特許を取得したとされていますから、日本企業は知的財産・技術の流出につながる行為には厳格な姿勢で臨むことが重要です。

また、一見何も問題がなさそうに見えるSNSへの投稿も、一歩間違えれば一種の政治活動や体制批判と見なされて当該スタッフ・企業ともに想定外の国際的トラブルに巻き込まれることもあるでしょう。スタッフの身元がわかる状態であった場合はなおさらです。

勤怠管理ツールはコンプライアンス違反防止の有効な手段となる

では、外国人従業員が在籍する企業がコンプライアンス違反を防ぐにはどうすれば良いのか―。
まずはコンプライアンス教育を実施して違反となる行為とリスク、違反した場合の処遇について事前に全社員に徹底周知させることが重要ですが、その後の監督は勤怠管理ツールが役立ちます

勤怠管理ツールはコンプライアンスツールでもある

当社開発システムである「RemoLabo」を例に出しますが、たとえば、本システムに搭載されている作業ログの自動取得機能では従業員が使用したアプリケーションや閲覧したウェブサイトの情報が記録されるので、管理者が近くにいない状況でもコンプライアンス違反が疑われる就業中の行為をある程度把握できるようになります
また、勤怠管理ツールで就業中の行為が常時チェックされていることを事前に通知しておくだけでも違反行為の抑止力となるでしょう。 出退勤時刻や労働時間の記録に終始しない高機能な勤怠ツールは、コンプライアンスツールにもなるのです。

勤怠管理ツールの導入は従業員から反発を招く可能性がありますが、その場合にはトラブル発生時に従業員を守るプロテクターとしてのメリットを伝えてください。不正アクセスや情報漏洩が疑われるような事態が発生した際、企業側のツールが記録したログデータを証拠として提供すれば、大切な従業員が不当な責任を負わないよう保護できます。

勤怠管理ツールはKPI設定や業務改善にも役立つ

さらに、誰がいつ、どの業務にどれだけの時間をかけていたか……といった生産性の部分も把握できるツールであれば、KPI(Key Performance Indicator、組織やプロジェクトの目標達成度を評価するための指標)の設定にも役立つので、客観的なデータを根拠に目標を定められるメリットにもぜひ注目してください
言葉や文化が異なる人材が集まる場において、数字は従業員のコンセンサスと意欲を引き出す一手となります。

リモートワークは従業員の本来の能力と意欲、自主性を引き出せる働き方

リモートワークは企業側のマネージメントスキルと従業員への信頼、従業員自身の良心・勤勉さが試される働き方です。 しかし、お互いが「大丈夫だ」と認識し合うところまで到達できれば、結果的に業務効率や生産性の大きな向上につながります
超少子高齢化と国際化が一度に押し寄せる今、日本企業がどのような働き方を提供していくのか―。
リモートワークは持続可能な経営を実現する鍵となるかもしれません。